先日読んだ「食えなんだら食うな」とよく一緒に読まれているそうなので、読んでみました。
この本をあえて一言でいうと「働くっていうことの固定観念を捨てようぜ」っていうことなんだと思います。
まあこの手の本をそのような雑な感じくくってしまうと、身も蓋もないんだけれども。
この本の著者である河本氏には、善意があるなあと思いました。
だからよくありがちな詐欺的自己啓発系の本とはひと味もふた味も違うと思います。
とくにこの方がステキだな、と思ったのは「本に人生を奪われない」という章。
読書によって「〜しなければうまくいかない」という思い込みが生じてしまいがちだ。
(中略)本を読んでひとつだけやろうというよりも、「全部やらないとダメ」という価値観が根付いてしまっているのだ。全部やらないと評価されない教育を長年受けてきたからだ。
これは確かに、どんな本を読んだってその危険性があります。
素直な人、まじめな人にかぎって、本やネットに書かれていることを「信じる」傾向があります。
納得がいった物事についてそうなるならまだしも、タイトルに「成功者の」とかがついていたら、あんまり納得がいってなくても、「これが納得できないのは私が未熟だからかもしれない」などと思い、たちまち騙されて「これを全部実行しなくてはならない」とか、「不退転の決意で遂行せねばらならい」とか思い出す。
そしてその本の付属品の手帳とか買い出す。
まず大前提として、この世には正解などというものは原則存在しなくて、じつは「正解だという解釈が多いことがいくつか存在している」にすぎません。
だから成功者がそれをしているからといって、それが正解かどうかなんて、だーれにもわからんよ。
なのに成功者の真似をして「おれも早寝早起きしよう」とか「タスクリストをつくろう」とか思い始める。
なにかをしたから成功者になったんじゃなくて、成功者がしていることには「正解」という解釈が多くつきやすい、というだけの話なんですけどね。
でもまあ、それを知らずにうまく騙されてくれる人がいてくれるから、自己啓発セミナーや出版社が食えるわけで、経済を回しているという点では良いことなんだろうと思います。
「すなおでええやつを、騙して食う」
すがすがしくそういうことをする人、いっぱいいるからね。出版界隈には。
こんな書き方をするとまるでそういう人をバカにしているように見えるかもだけど、そうではありません。
ボク自身が、かつてはそうだった。
この世には「正解」があるのではないか、という幻想に支配されていたんですよね。
これは、この本の著者がいうように、学校教育のせいだというのもあると思います。
とくに学校でそこそこの成績を出していた人に、その傾向がつよい。
本来便宜的に設定した、仮想的な「正解」を、都合上半ば絶対的なものとして価値変換し、それに合致した回答を探すことを「良し」とする。
そんなことを、12年間もトレーニングするのです。
んなもん、アホにならんほうがおかしいやないか。
正解は、もともとあるんじゃなくて、結果的に出てくるもの。
こんなあったりまえのことを、脳がピチピチでいちばん柔軟なガキの12年間で、だあれも教えてくれんのですよね。
答案の「マル」の数が多いほうが、エラい。
そのシステムじたいが、どアホなんじゃ。
そういうアホシステムに汚染されているから、カルト宗教なんかにハマる人が絶えないんだと思います。
この世にも「正解」があるのでは、と夢想するのです。
あるか。ボケ。
ないからみんな、苦労しとるんじゃ。
じぶんだけ楽しようとすんなや。
自己啓発セミナーで聞いたことをいっしょうけんめいに実行しようとする人は、宗教にハマっていくひととまったくおなじ目をしている。
ヨガに心酔しているひともまた、同じ目をしている。
どこのだれだかようわからん、ただのオッサン・オバハンが言うたことに、いちいち納得してうなずくなっつうの。
気色の悪い。
まだ親やジーチャンバーチャンの言うことを聞いとるほうがマシじゃ。
おまえは、おまえだろ!
っていうことに、やっと最近、気がついたんですよね。遅いけど。
「ぼくの前に道はない。ぼくの後ろに道はできる。」
自己啓発系、健康本、宗教本なんかよりも、文学作品のほうがよっぽどいいこと言ってます。
だからこの本のいいところは、
「おれの言うことだって、ホントとは限らないからな。おまえに合うかどうかなんか知るか。」
っていうことを、序盤でビシっと言ってるところですね。
著者の善意を感じますねえ。
参考になるところも、もちろんあります。
でもその内容自体は、べつにどこにでもありふれたことばっかりです。
だからこの本の「核」は、「本を信じるな」の章だな、と思いました。
じっさい、これがいちばん大事なことですものね。
人まねをして、人のいうことに従って、それでうまくいく人生なんて、ショボすぎるやろうが。
参考書がないと考えられませんとか、アホすぎるやろうが。
なにをしに生まれてきたんじゃ。