いわゆる「職人さん」って、すごいなあと前から思ってたんです。
その技じたいも当然そうですけど、それよりもぼくが驚きを禁じえないのが、「なんで疲れないの」っていうこと。
細かい、複雑なことを、背中をまるめて顔を近づけて、何時間でもぶっ通しでやる。
そういう姿を見ていると、技じたいのスゴさが、ニゴるよね。
「あんなふうにやって疲れない方法が知りたい」って思っちゃうから。
ぼくなんか、パソコンでプログラムをチコチコ書いてるだけで、
「ぬあああああ! だーーーーん! どかーーんっ!!」
とか叫んで、机を飛雄馬のダディばりにひっくり返したくなります。
ああ、もう、いらいらする!
「職人は疲れない」
そんなふうに思っていたんですけど、じつはこれは、ただの先入観かもしれないですね。
家具とかの職人さんに数人知り合いがいるんですけど、そういえばみんな、頑固なんですわ。
職人気質といって、職人さんは頑固だというイメージありますよね。
海外でも、そうらしいです。
職人さんの頑固一徹な理由については、「それぐらいでないと、いいものができない」「よいモノをつくろうという意思が、そうさせるのだ」的な、精神論的な話が多いです。
どうかなあ。
まあ、もちろんそれもあるんだろうけど、案外「酸欠」なんじゃないの、っていう気もします。
背中をまるめて座って、集中して、ずっと黙って、イキもろくすっぽしないで細かい作業を延々とやりつづけたら、やっぱりイライラしてくるんですよ。
突発的な何かに対応するのが苦手になったり、新しいことに取り組む関心を失ったり。
いま、目の前にあることにしか関心がなくなっていく。
人との会話とかも、あんまり積極的じゃなくて、なんかぶっきらぼうになる。
悪意があるんじゃなくて、どうしていいかわかんないんですよね。
酸欠になってるから。
たとえば営業マンとか商売人で、頑固一徹、っていうのは少ないと思うんですよね。
まあそんな性格なら商談もろくすっぽできないだろうから、当然なんだけど、でもこれも案外呼吸のせいだったりしてね。
営業マンはしゃべるのが仕事、みたいなのもあるから、黙りこくっていることは少ないですよね。
あと移動も多いから、なんだかんだいって、よく歩いてる。
接待の酒とノルマの重圧さえ少なければ、営業マンは意外と健康的な職業のひとつです。
職人さんって、酒好きの人も多いんですよね。
思うに、飲まないとヤバいんじゃないかな。
酸欠で運動不足で、神経も疲労して興奮してるから、酒で強引に血管開いて、リラックスさせないと気色悪いのかもしれませんね。
ぼくの知り合いの職人さんも、かなりの酒飲みです。
頑固一徹、っていうのは、最近いいコトバみたいに言う風潮あるけど、もともとはわるい意味でしたからね。頑固って、融通の効かない、こころの狭いひとのことを言った。
職人気質っていうのも、どちらかというと揶揄する意味合いも多かったんじゃないかな。
こまかいことにこだわって、全体を見てない、みたいな。
いわゆる「絵師」といわれるネット上で作品を公開している絵描きさんなんかも、息苦しくなったりウツっぽくなったりする人は多いみたいです。
職人って、酸欠になりやすいんでしょうね。
創作活動そのものは、とっても精神に良いことだとは思うんだけど、息苦しくなってイライラしだしたら、相殺どころか、マイナスのほうが多いですよね。
職人系のしごとをする人こそ、カラダを動かしたり、姿勢や呼吸を意識するように習慣づけたほうがいいのかもしれませんね。
頑固で怒りっぽく、内向的で変化を厭う性格が才能の別の現れではなく、ただ呼吸が浅いせいだったとしたら、申し訳ないけど「おれの尊敬返せ」って言いたくなりますわ。
なんでおまえの体調管理のとばっちりを、おれが受けんとあかんねん、って。
高度な技を持つ機嫌のわるい職人さんよりも、そこそこ上手な機嫌のいい職人さんのほうが、ステキだと思います。
モノはどうせいずれ壊れてしまうんだから、ひとを大事にできるひとのほうが、ずっと偉いと思う。