短気ではなく

春うらら。

うらら、ってどーゆー意味なんだろーなーとか思いつつ、ほんとうは全然思ってないけど、ソファでゴロゴロしていたらつい昼間っから眠ってしまいました。

はっ!

と目を覚ましてテーブルの上のスマホを取り上げて見たら、30分も眠ってしまっていました。

いかんなあ、寝過ぎかも。起きよう。

スマホをテーブルの上にタンッ! と置き、

「ヨシ!」

と一声上げる。

そしておもむろに起き上がったものの、2秒後にまた横になってしまう。

結局、また寝てしまいました。

なにが「ヨシ」じゃあ。

そのあと結局1時間ぐらい寝てしまっていたのですが、起きたのはインターフォンが鳴ったから。

 

春の昼寝の途中に起こされると、「ものすごい呆然」になりますね。

合計3回ほど壁などあちこちに追突しながら玄関にたどりつきました。

ドアを開けると、門のところに見知らぬおばさんが立っていた。

なんかいっぱい喋ってる。

なんか、いっぱい喋ってるなあ。

「ものすごい呆然」なので、ぜんぜんあたまに入ってこない。

イワシぐらいの脳状態でやっと聞こえたのは「ジチカイノフクカイチョーになってください」。

ジチカイノフクカイチョーて、ナニ?

あ、「自治会の副会長」か。

 

パニック障害から外出恐怖症になって、最近こそちょっとマシになったものの近所のスーパーで買い物ができた程度でカンドーし落涙しているおじさんです。

そんなやつが「会合」に出られるわけはない。

なので丁重にお断りをしたのですが、食い下がるのでありますね。

「前会長のスズキさん(仮名)からもご推薦いただきまして、ぜひともと思いまして」

知らねえよ、そのおじさん。おばさんかもしれないけど。

やっと眼が覚めてきて、話をきちんと聞くと、ようするに副会長になってくれる人がいないので、是非お願いしたい、というのです。

 

奥から親父も「どした?」と出てきまして、一緒に話を聞いていました。

親父はすぐに理解したようで、

「いえ、私共は力不足でございますので、お断りいたします」

そうか、親父はやりたくないんだな。

じゃあ、結論はかんたんである。

やりません、それで終わりだな。

……と思ったら、そこからなんと30分もおばさんの話は続くのでした。

要約すると、

・たいへん大事な仕事なので、ぜひともぜひとも信頼できる貴殿にお願いをしたい

・横にいてくれるだけで良い、かんたんな仕事です

の2点でした。

たったこれだけのことを30分かけて語るとは、もしかしたら「コラムニスト」とかになれるんじゃないか、このおばさん。

 

さておき結論は決まっているので、なんとかフニャー、フニャー猫みたいに鳴いてみたり、イヌのようにワンワンと真摯に説明したりしながら、いっしょうけんめい断ったのですがいっこうに引かない。

屈強である。ジェリコの壁である。

そこでやっと、ピンときた。

(しまった! このひと、人の話をまったく聞かないタイプだ)

おばさんに多い。

こういうばあい、2つの手がある。

1.こっちも話を聞かないで、全然ちがう話を延々としつづける

2.相手の矛盾を突いて黙らせる

 

ほんとうは「1」が最も安全なのです。

相手を傷つけることなく、恨まれることもなく、相手に「あ、こいつアタマおかしいんだな、ダメだこりゃ」と思わせてしまえば、平和に終わるのです。自動的にあきらめてくれる。

宗教の勧誘を断るのには、これが最善です。

しかしもう、遅い。30分もきちんと聞いてしまったので、とつぜん「アホ化」するのは、いくらなんでも大根すぎます。

残るは「2」なんだけれども、これは危険がともなう。

相手を傷つけて、恨みを買う場合がある。

これは本当にあった話で、牛乳配達のしつこい勧誘を「水も漏らさぬ論破」で追い返したところ、翌日家に放火されたのだそうです。

基本的に相手を「やりこめる」というのは、あまりしないほうがよい。

 

よし、ハイブリッドでいこう。

「3の倍数のときだけアホになります」的な感じで、基本的にきちんと対応をしているのに、なぜかある瞬間「アレっ?」と思わせるような言動を挟む。

それなら、今からやってもイケる。

さてまずは、8割ほどまでは論破しなくてはいけません。

「自治会のお仕事、法治国家である日本においてはとても重要であると存じております」

「そう、そうなんです! だからぜひ・・・」

「私どもののような者に、そのような大役を打診いただき光栄です」

「ええ、では・・・」

「しかし申し上げましたとおり、私どもでは力不足ではございますが、話がおかしい」

「は?」

「誰にでもできるような簡単なお仕事とおっしゃられたが、それならば私達でなくてもよいという話にはなりませんか」

「いえ、それは、推薦いただいたこともありますし」

「きのうスペインでは、デモで2000人のコロナウィルスの感染者が出たようです」

「は?」

「ああいうふうにイデオロギーで無謀なことをするとは、欧米人もあまり賢くないのでしょうか」

「ええと・・・」

「えっ?」

「え?」

「だから結論としては『やりません』と申しております。もしかすると、いっしょうけんめいに食い下がればなんとかなる、とでもお考えなのでしょうか?

さきほどご説明申し上げましたとおり、かくかくしかじかの理由で、当方では業務遂行が不可能と判断しします。桜はもう咲いていましたっけ?」

「えっ」

「えっ? なんですか?」

「え?」

「会社を経営されているとおっしゃっておられましたけど、やる気のないものを無理やりその業務につかせてもお互いに幸せにはまれませんよね」

「まあ、そうですね」

「えっ?」

「えっ?」

「あの公園、もう桜は咲いていましたかね?」

「……いえ、まだだと思います……」

「えっ? なんですって?」

「え、桜ですよね」

「えー、そうですかあ。今年は早く咲くと聞いていたのですけどね、そうですかー、ちなみにぼくの友人の家では切り花はもう満開だといっていましたよ、あはははは」

「はあ、桜…」

「失礼しまーす」

 

結局、あたまに「?」を数個つけたまま、帰っていってくれました。

(あいつ、ちょっとやべえな)と思ってくれたのではないか、と思いますが、どうだかなあ。

本来は「満面の笑顔でものすごくいっぱいしゃべっているけど、なにをいっているのか全然わからない」とか「会話の最中に謎の言葉が何度も出てくる」などが良いのですが、いかんせん「ご近所様」なので、あんまりおかしなことをすると、話がややこしくなる。

 

さておき、気がついたのです。

ぼくはじぶんで「短気だ」と思っていたけれども、そうじゃないようです。

親父がいいました。

「おまえ、よくあんなシツコイおばさんに気長に対応できるなあ」

そういえば親父は途中、あきらかに怒りをこめて語気を荒げていました。

しつこすぎて、アタマにきていたようです。

「それよりお前……途中なんかへんなこと言ってたな。あれが、発作か?」

ちがうよお。

パニック発作って、べつに言動がおかしくなる病気じゃないっつうの。

 

ぼくのあの妙なイライラは、やっぱり単純に「調子が悪い」だけなんですね。

性格的には、意外と気長なのかもしれません。

昼寝を叩き起こされたのに、べつにハラは立ちませんでしたしね。

外出恐怖についても、やっぱりべつに人が嫌いとかそういうのではなさそうです。

それよりも、おばさんの「えっ?」ていう顔を見て、笑いを堪えるのに一苦労でした。

 

宗教のおばさんも、これで遊ぶと楽しいですよ。

相手は一生懸命いいことだと思ってやっているので、無下に冷たく追い払うのは可愛そうだし、マジで恨みを買ってややこしくなる場合もあるので、「へんな感じ」にしておくほうが、冗長性があって良いような気がします。

 

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