けさ庭先でぼうっとタバコを吸っていて、目を疑った。
うちの庭には枯れ葉などを腐らせて腐葉土にするエリアがあって、その土のうえにまったく見覚えのない物体があった。
それはベージュ色、あるいは黄色のもので、大きさは30cm以上もある。かなりデカイ。
工事などで使う「ウレタンフォームスプレー」を吹きかけたような、そんな不定形の形をしていた。
きのうの夜まではなかったのです。
けさになって、突然あらわれた。
なんだこれは!
真夜中にだれかがうちの庭に侵入し、土の上にウレタンフォームスプレーをかけていったのだろうか。
想像してみる。
だれもが寝静まる、真夜中の住宅街。
番犬の目を避けつつ、住人が目を覚まさないよう音も立てず、まるで忍者のように忍び込む侵入者。
きっと、暗い色の服を着ていたであろう。
彼はおもむろに懐からウレタンフォームスプレーを出し、それを地面に吹き付けた。
そしてそのまま、また音を立てず、番犬を起こさないよう、最新の注意を払って敷地内を去っていく。
そんなやつ、おらんやろう。
意味わかんねえわ。
へたしたら不法侵入で捕まる可能性を押してまでひとの家の庭に忍び込み、ウレタンフォームスプレーを庭に噴霧しだたけで、さっさと立ち去る者。
そんなやつ、おらんやろう。
いろいろ調べてみたところ、これはどうやら「ススホコリ」という粘菌の一種のようです。
学術的には「真性粘菌亜綱」というらしい。
ススホコリは家の庭やベランダなどに、ほんとうに「とつぜん」あらわれる。
スポンジのような見た目で、触った感じもまさにスポンジのよう。
そしてかなり巨大だったりもする。
質感はすこしカマキリの卵にも似ている。
だから人々は「なにかの虫の卵ではないか」と憶測するようです。
ススホコリは微生物を食べる粘菌で、じつは無害なのだそうです。
彼はある日胞子を噴出して、きれいに「消えてしまう」。
なかなか潔い性格のようです。
驚いたのは、このススホコリを食べる人もいるのだそうです。
メキシコのベラクルスには粘菌を食料としている民族がいて、このススホコリを「caca de luna = 月の糞」と呼び、焼いて食べているらしい。
ほんとになんというか、人間という生き物は、なんでも食うなあ。
はじめてカニやナマコを食ったひとには畏敬と驚愕の念を抱かざるべからずだけれども、このススホコリを「食おう」というその食欲には、完全に脱帽であります。
それほど空腹に追い詰められていた、ということなのでしょうか。
お月さまのうんこは、たべられる。
そういえば聖書に出てくるイスラエルの民を救った「マナ」という食べ物は夜中のうちに魔法のように地面にあらわれてくるらしく、「見よ、わたしはあなたたちのために、天からパンを降らせる」という記述がある。
そういえばこの粘菌、パンに見えなくもない。質感も似てる。
「マナは粘菌の一種だったのではないか」とする説もあるそうです。