2年ぐらい前に「スタンディングデスク」を導入しましたが、結局続かなくて、1ヶ月もしないうちに座って仕事をするようになりました。
理由は「能率が悪くなるから」でした。
経理などの計算作業とか、調べ物をするとか、読書とか、コーディングをするとか、そういうのにはスタンディングデスクは向いているなと思いました。
しかしデザインをするとか、キャッチコピーを考えるとか、そういうどちらかというとクリエイティブ系の作業には向いてないなあと感じました。
立ったままデザインをしたものを数日経ってから客観的見てみたらクソみたいなデザインだったことに気づいた、ということもよくありました。
なぜそうなのかはわからないのですが、「立つ」のと「座る」のとでは、使う脳の部位が違ってくるのかもしれないなあと思ったりもたものです。
ですが最近、またスタンディングデスクを復活しました。
理由は単純です。
「そうしたいから」。
前回は健康のことと能率のことを考えてスタンディングデスクを導入をしました。
べつにそうしたいとは思わなかったのですが、世間で「良い」と言われているからやってみよう、という感じだったのです。
もしかしたら当時能率が悪くなったり、デザインがクソみたいになったのは、これが理由だったかもしれません。
ほんとうはイヤなのに、目的があってスタンディングデスクにしたところ、かえってストレスが増えてしまったのかもしれません。
健康のことで何らかの努力をすると不健康になってしまうのは、だいたいこれが原因で、似たようなことが起こっていたのかもしれませんね。
さておき、今回はちがいます。
普段どおり座って仕事をしていたところ、ある日とつぜん「立ちたい!!!!」という強烈な欲求が生まれました。
うむ、これはきっと気まぐれなのであろうな、どうせそのうち治まるだろうなと思って放置していました。
しかし1週間経っても、2周間経っても、変わらない。
じゃあもう素直に立って仕事をしてみっか、という流れでです。
医学的にいえば「立って仕事をするのは健康に良い」というのはほぼ迷信なのだそうです。
確かにずっと座って仕事をするのは健康に悪く、突然死のリスクが4倍ほど高くなるという話もあります。
しかし、では立って仕事をすればこの問題を解決できるかというと、そうでもないようです。
立って仕事をするのにもリスクがあって、その中でもいちばん怖いのが「動脈瘤」です。
立ち続けていると脚に動脈瘤が発生しやすくなる。
それ以外にも、腰や下半身の関節を痛めやすくなったり、かえって背中や肩が凝りやすくなるというのもあるらしい。
結局のところ、いずれにせよ「座り続ける」「立ち続ける」というのは、ともに良くないということなんだそうです。
考えてみれば、当然だともいえますね。
人間のカラダになぜ関節があるか、それは「動くため」です。
立ったまま動かなければ、それは座っているのと大差ない。
なので最もスマートなソリューションは、「ときには立って仕事をして、ときには座って仕事をする」っていうことなんだと思います。
お釈迦さんが言うように、偏ってはいけない。
正解はいつも「真ん中らへん」にある。
で、立って仕事をするようになって確実に感じたことがあります。
「おれ、弱ってんなあ」
たったの1時間、立って仕事をしてみたら、なんかヘトヘトになってしまう。
腰が痛い、脚が痛い。
そしてこの痛みというのが、筋肉や腱、関節ではなく「組織が痛い」のです。
とくに足の裏の皮膚とか、筋肉ではない部分の肉が痛い。
これはすなわち、座り続ける生活を続けたことによって、足の組織自体が重量に耐えられなくなっているということなんだと思います。
足の裏が、やさしくて、気の弱い、繊細な人格になっていっている。
ネットなどで調べると、座りすぎによる運動不足が引き起こす問題を「筋力低下」だと言い張る人が多いです。
あと、カロリー消費が減って太るとかいう人も多い。
しかし実際には、そんなに画一的な感じではないのだと思う。
デスクワークでも案外背筋力や上半身の筋肉は使っていて、それほど筋力は落ちていない場合もある。
頭を使うのは意外とカロリーを消費するから、座りすぎと肥満には必ずしも強い相関関係はない。
それにそもそも、立ち続けていても、座り続けていても、消費カロリーの差はそれほどないそうです。
それよりも案外見落としなのが、じつは「股関節の血行」と「足裏の刺激の減少」「足裏の組織の弱体化」だったりする。
座っているとお尻に体重のほとんどがかかっていて、その部分の血行は悪くなる。
そして股関節がずっと90度ぐらいに曲がっているので、その部分の動静脈を圧迫し、下肢への血流が慢性的に阻害される。
わりと窮屈なズボンを履いていたら、さらに血行は阻害される。
下肢への血流が阻害されるということは、下肢から上半身に向けての血流も阻害されるわけで、結果的に全身的な血行不良になる。
足裏への刺激が皆無になることで筋膜が硬化していき、足裏の筋膜が硬化すると全身的にも筋膜が硬化し、からだが固くなってしまう。
このことで自律神経が不調になったり、慢性的な酸欠状態になったりして、とにかくいろいろ具合が悪くなる。
立ち上がったときに突然下肢の血流が開放され、血行が急に改善され、吸気が増えて血液のpH値が急激に変化して立ちくらみを起こす、いわゆる起立性調節障害も出やすくなる。
だからずーっと座ってばかりいると筋力が弱るとか、血行が悪くなるとか、そういう要素的分解的な因果があるのではなくて、単純に
「生き物として弱くなる」
ということなんだと思います。
理屈っぽいから一見頭は良さそうだけど、その実は足腰は弱くて勇気がなく、ストレス耐性が弱く、神経過敏で、視野が狭く、呼吸が浅く冷血で、免疫力が弱く、くそまじめなくせに、根性がない。
それはそれでその人の個性ともいえるから、一概に悪いこととはいえないけれども、一番困るのは結局本人なわけで、だから「良い」とも簡単にはいえない。
立って仕事をすることの一番のメリットは、
「休憩が休憩らしくなる」
ということだと思います。
座ったまま仕事をしていて、さてそろそろ休憩しようかと思っても、もう座ってしまっています。
座るよりも楽な体制は「横になる」しかなくて、そういうわけにもいかないから、また座ったままYouTubeとか見てみたりするけれど、これは気分転換になっているようで、じつは全然転換できていない。
姿勢体勢が変わっていないから。
そこで散歩に行く、というようないわゆる「アクティブレスト」が提案されるわけだけれども、これこそがまさに机上の空論。
確かにたまに立ち上がって散歩に行くのは、ものすごく良いことだし、効果も高い。
でもここには「こころ」の問題が欠落している。
ずーっと座って集中して仕事して、「あー、疲れた」となったときに、立ち上がって散歩に行く。
「静」から「動」に移行すると、人間は「休んでいる」という感じがしないのです。
生理学的には休息とほぼ同義であったとしても、心理的には休めていないのです。
いっぽう、立ったまま仕事をしていて、「あー、疲れた」となったときに、座る。
このときの「座る」は、これはもう、まごうことなき、光り輝く「ひとやすみ」なのです。
もし世界ひとやすみ選手権というのがあったら、まちがいなく上位入賞できるであろう「ひとやすみ」であります。
疲れたから、座ってやすむ。
これはたぶん、人類数億年の歴史の中で本能に深く深く刻まれている行動原理なのではないでしょうか。
スタンディングデスクを導入することで手に入る最も大きな効果は、「休みらしい休み」なのかもしれません。
座ったまま働いて、座ったまま休むとか、座ったまま働いて、ゴロゴロ横になって休むとか。
そういうのって、なんだか「休んだ気ががしない」。
休むのに正しいも間違いもないかもしれないけれど、これはやっぱりどうにも「誤った休み」のような気がする。
いっぽう、立ち疲れて座るときは、全身が「ほっ」とする。
これはとっても「ただしい休み」のような気がするのです。
ただしい休みだけが、人間を健康にする。
そそてただしく休むためには、からだが疲れていなければならない。