気がつけば在宅ワーク歴も10年以上が経過していた。
コロナとは一切関係なく、ひたすら家でデスクワークを続けてきた。
デスクワーク、それもパソコン作業ということになると「机と椅子問題」を避けて通ることはできない。
ぼくは先日、突如として天啓を受けたのである。
「ああもうっ、机の件ではもう金輪際、我慢しないのだあーっ!」
いやまあ「天啓」ではく、発作的にヒラメイただけであるが。
いずれにせよ、固く誓ったのである。
机に関してはいままでずっと、しっくりこなかった。
我慢の連続であった。
ちょうどいい高さ、ちょうどいい広さ、ちょうどいい材質、ちょうどいい色。
家具屋を徘徊し、ネットを徘徊し、あまり関係ないが近所を徘徊しても、ぜんぜん見つからなかった。
原因は単純である。
「JOIFA(日本オフィス家具協会)」のせいである。
JOIFAではオフィスデスクの高さの推奨値を「72cm」としている。
したがって一般に流通している机のほとんどはこれに準拠していて、高さ72cm前後のものがほとんどなのであった。
しかしパソコン作業を長年やっている人ならわかると思うが、この72cmというのは「あまりにも高すぎる」のである。
もはや正気を疑うほどの高さである。
キーボード作業を行う場合はせめてその2cmは低いほうが望ましい。本当はもう少し低いぐらいのほうがいいが、かなり譲歩して70cm。
皮肉なことで、1971年のJIS規格では机の高さは70cmとされていた。
しかしJOIFAが「いやいや、最近の日本人は体格も良くなってきているし、72cmでいいんじゃねえ?」と、2011年に変更してしまったのであった。
おそらく、これを決めたひとたちが、あまりパソコンを触らない人たちだったのであろう。
エンピツやボールペンでシコシコと書類を書くことしか念頭になかったものと思われる。
もちろん机の高さは身長や座高によって適正値は変わる。
「バウヒュッテ」という会社の計算サイト(https://www.bauhutte.jp/bauhutte-life/tip2/)では、たとえば身長170cmの人がキーボード作業を行う場合は適正な机の高さは「67cm」としている。
逆にJOIFAが推奨する72cmは、身長182cmの人に適正な机の高さになる。
いくら最近は背の高い人が増えたとしても、182cmというのはかなり少ないだろう。
なお、このバウヒュッテのサイトはよく参照されているようであるが、個人的にはこれでも少し高いと思う。
例えばぼくは身長171cmだけれども、この計算サイトによれば適正な机の高さは「67cm」となる。
Appleの薄型キーボード(Magic Keyboard)の場合であればこれぐらいでも良いが、多少高さがあるキーボードを使う場合はこれよりも2cmほど低いほうがしっくりくる。
つまり65cmほどがちょうどよい高さということになる。
比較してみれば一目瞭然だが、キーボードというのは種類によって全然高さが違う。
写真では奥が「Keychron K2」というもので、手前がApple Magic Keyboard である。
2.5cm〜3cmほど高さが違うわけで、当然デスクの適正な高さも変わってくるであろう。
高すぎるデスクでキーボード作業をすると常にウデを微妙に上に持ち上げた体勢を取らねばならず、肩や背中を不必要に疲労させる主原因となる。
また手首を常に持ち上げた状態にもなるので、腕の甲も疲れやすくなる。
たった5mm高すぎるだけでも疲労感が強くなる場合がある。けっこう厳密なのである。
(むろん低すぎるのも良くないが、高すぎるよりはまだバッファがあるようで、5mm程度であれば低すぎてもあまり使用感は変わらない。)
なーにを神経質な、たった数センチや数ミリの誤差程度でウジウジいうなやこの弱虫め。
と思う節もきっとあるだろうが、それは作業時間、あるいはその期間が短いからこそ言えることである。
一日に数時間、そしてそれを数年、あるいは10年以上その作業を継続する場合、馬鹿な大学生のようなジャンボリーなことを言っていると心身を壊してしまう。
じつは酒よりもタバコよりもドカタよりもデスクワークは危険なのである。
ぼくは経験者だが、からだに合わないデスクで仕事を続けていると、腰痛や肩こりなどという可愛らしい不具合ではもはや済まなくなってくる。
いずれ自律神経をぶっ壊し、パニック障害やウツ、広場恐怖、不安症候群なども併発するようになり、廃人寸前にも至るのである。
社会生活をまともに営めないほど悪化してしまう場合がある。
そうなってしまったら伝家の宝刀「根性」さえも、もはや効力を失うのである。
「根性を利用しても、どうにもならない状態」
を想像してみるがよい。それはすなわち「もう終わり」ということである。
なにごともいいかげんに考えていると、長い時間が伴ったとき想定を遥かに超えた不具合が出るのである。
痛く痛く、まさに激痛をもって反省をした。
仕事のことで多少我慢するのは良い。
人間関係で多少我慢するのも良い。
イヤなことを多少我慢するのも良い。
しかし椅子と机のことで我慢するのはもう金輪際、不退転の決意をもって、やめよう、と。
こればかりは一切の譲歩をしないでおこう、と。
そこでようやく、見つけたのである。
「Flexispot」という電動昇降機能付きのデスク。
これは通常のデスクとしてはもちろん、スタンディングデスクとしても使用できる。
ボタン一発で通常のデスクにも、スタンディングデスクにも変貌する。
また、高さ60cmまで下げることが可能なのである。
電動昇降デスクは世の中にごまんとあるが、意外とこういうのがなかった。
なぜか「最低で70cm」で、それ以上低くすることができない。
できれば高さ66cmが理想のぼくにとっては、そんなデスクは不要だった。
このFlexispot、機能的には申し分ないのだが天板に気に入ったものがなかったので、天板だけは自作した。
これもJIS規格なのかどうかはわからないが、世の中のデスクというのはなぜか天板がツルツルのピカピカなのである。
お前はカラスか女子大生か馬鹿なOLかと質問したくなるほどに、デスクメーカーはみいんなピカピカ・キラキラが好きなのである。
たしかにそうすれば見た目もきれいだし、水や汚れを弾くので良いような気はする。
しかし表面がピカピカであると光を余計に反射して(グレア)目をやられる場合もあるのである。これも経験している。机からの光の反射は、思ったよりも目を疲れさせているのである。
長時間のパソコン作業を行うのであれば、机の天板は光を反射しにくい素材の方が絶対に良い。
また色も白や薄いグレー、ベージュなどはやめておいたほうが良いだろう。焦げ茶や黒など、光を吸収するタイプの色のほうが良い。
白など明度の高い色の机はたしかに部屋が明るく見えるし、清潔感もあって良い。
しかしこれも眼精疲労を招くのである。高い明度は、目を疲労させるのだ。
ガラスや樹脂加工されたものも、できれば避けたほうが良い。
夏はベタベタするし、冬は冷たくて非常に不愉快だからである。
こういったことをすべて解消しようとすると、選択肢は必然的に天然木材一択になる。
ウォルナットなどの無垢材が最適だが、いかんせん高価過ぎるし、加工しにくいという問題もある。そもそも入手しにくい。
そこで一般的な集成材にワトコオイルなど樹木に染み込ませて塗布するタイプの塗料を用いれば、反射がなく汗のベタツキや触ったときの冷感を緩和してくれる天板が作れるのである。
実際にDIYしてみたところ、かなり目が楽でベタベタしないので良い感じである。
またワトコオイルの茶色(写真はダークウォルナット色:W13)を染み込ませた木目は、色だけでなく精神的にも癒やしがあるように感じる。
一般にスタンディングデスクには電動式とガス圧式がある。
個人的には、高くても電動式がおすすめである。
ぼくも最初はガス圧式を使っていたが、2つの点で問題があった。
1つには、「案外重い」ということである。
ガス圧でかなり楽に上げ下げできるのは確かだが、そうはいっても、けっこうな力は必要である。ヨッコラショ、と若干の気合が必要になる。
この「些細な気合が必要」というところが、スタンディング機能を使わなくなる最大の原因になる。
買うときは、思うのである。
「それぐらいできるだろう。上げ下げするときの一瞬だけの辛抱じゃないか。そんな根性すらないのなら、立って仕事なんかできないんじゃないの」
ウソである。それは妄想である。
そーゆーことでは、ないのである。
「できるだけ不要なガンバリを排除する」というところから、計画はすでに開始しているのである。
リスクを前向きに考えて無視しようとするその怠惰な心にこそ、悪魔は侵入してくるものなのである。
結果、そのうちスタンディング機能はまったく使わなくなる。機能はあるのに、座ったままで過ごすこと必至である。
あともうひとつは、物理的な耐久性の問題である。
机というのは意外とナイーブなものらしく、長年使っているとガス圧の左右バランスがおかしくなってくる。
微妙に右側だけ下がってきたりして、どうにも安定しなくなってくるのである。
まあこれはぼくが買った製品にたまたま問題があったのかもしれないが、上記の1番目の理由とあわせて、ガス圧式はおすすめしない。
それにそもそも、ガス圧昇降式で高さが65cmにまで下げられるものというのが、どうも見つからないのである。
Flexispotの「E7 Pro」なら、最低の60cmから、最高の1.25mまで無段階で調整できる。
また、高さを4つメモリーに登録できるので、
・立った状態
・座ってキーボード作業
・座って薄いキーボードを使用する作業
・座って書き物
のように、4種類の高さを登録しておいて、状況に応じてボタンを押すだけで自動で昇降してくれる。
なんでもないような機能だが、案外これがあとから「効いてくる」のである。
そろそろ立って仕事しようかな、というときに「ヨッコラショ」的気合を必要とせず、ボタン一発で勝手にその高さになってくれる。
そうなるともう阻害要因がなくなってしまうので、スムーズに(あるいは、しょうがなく)立って仕事をするようになる。
Flexispotの「E7 Pro」は、たしかに高い。5万5000円もする。
しかしぼくは、計算をしてみた。
ぼくはあまりしっくりこない机を何台も買い換えてきたが、その金額の総合計よりもFlexispotは安かったのである。
最初からこれを買っておいたほうが結果的には安くついたのかもしれない。
何より、仕事をするたび毎回微妙な違和感と不快感をおぼえるというのは、いかほどの総合的損失になるであろうか。
よけいな疲労のためにイライラし、電話などでつい不機嫌な対応をしてしまったら、いかほどの機会損失を生むのであろうか。
環境は自分自身で構築できることのひとつである。
人生には妥協すべきことと、一切妥協すべきでないことがある。
机と椅子については、デスクワークを主たる業務とする人にとっては「妥協すべきでない」環境かもしれない。
どうせ仕事や日々の生活では、何かと妥協を強いられるものである。
なのでせめて、わが仕事環境ぐらいは「妥協なき理想郷」を構築しても、べつにバチは当たらないのではないだろうか。