ぼくはもしかしたら、「筋肉がないとダメになるタイプの男」なのかもしれない。
思春期以降人生のほぼ大半をマッチョ系で生きてきたので、もしかしたら心身が「筋肉を基本としたシステム」になってしまっているのかもしれない。
筋肉が復活してくると頭が冴え、闘争心が戻り、気が強くなり、行動的になり、目標指向性が高くなり、陽気になり、社交性が高まり、快活になり、元気になる。
しかし筋肉が衰え、体脂肪が増えてくると心配性になり、理屈っぽくなり、ひがみっぽくなり、否定的になり、社交性が低下し、怒りっぽいくせに落ち込みやすくなり、気が弱くなり、臆病になる。
あまりにもこの差異が明確なので、もはや性格なんてものは存在しないのではないか、と思ってしまうほどである。
筋肉量の多寡でこれほどまでに対蹠的なパーソナリティーになるのであれば、ぼくの性格は筋肉でできている、といっても過言ではないのかもしれない。
べつに筋肉がそれほどなくても快活な人はたくさんいる。
うらやましい。
でもたぶん、もう取り返しがつかないから、すなおに筋肉をつけようと思う。
さて、ではゴールをどこに置くか。
ぼくの美的感覚からすると、いわゆる「細マッチョ」ぐらいが美しいと思う。
獰猛性を感じるほどの大量の筋肉がついているわけではなく、筋肉量は適度で、「引き締まっている」程度。
これぐらいが、ちょうどよいのではないかと思う。
柔道をやっていたころも、上記の写真にもう少し筋肉がついて腹筋が割れていたぐらいだった。
もう50のオッサンだし無理しても逆効果だろうから、あまりゼイタクなことは言わず、「引き締める」ぐらいでいいんじゃないかな。
そんなことを、強く思うのである。
しかーし!
筋力トレーナーをしている知人に話を聞いて、ぼくは目からウロコのようなものが剥落したのであった。
彼はぼくの理想体型が細マッチョであるということは十分に理解し、それを強く肯定した上で、こう言ったのである。
細マッチョを目指して細マッチョになれる人間なんか、この世にはいないんだよね。
長くトレーナーやってるけど、一回も見たことないよ。
アーノルド・シュワルツェネッガーを目標にして、やっとのこと細マッチョになれるかどうか、ってところ。
細マッチョを目指しても筋肉量はほとんど増えないし、体型もあまり変化しないんだ。
細マッチョを目指すんなら、悪いけど筋トレなんかやめておいたほうがいいと、個人的には思うねえ。
細マッチョな人って想像の10倍ぐらい鍛えてるんだよな。
あううっ。
はううっ!
ぐうの音も出ないっ!
なんという、プリミティブ。
なんという、基本事項であろうか。
おじさんは、ハタと目が覚めたのであった。
そりゃあ、そうだわなあ。
なんでも、そうだもんなあ。
売上1千万円を目指して、ちょうど売上1千万円に到達するやつなんかいねえ。
売上2千万円を目指してやっと1千万円に到達できるかどうか、ってところだもんなあ。
スポーツだって優勝するつもりでやんないと、ベストエイトも怪しいところだ。
目標は2倍から3倍にしておかないと、この娑婆世界では、なんでも、なにひとつ、うまくいかないんだよなあー。
若い頃ぼくは確かに細マッチョであったが、その当時の練習メニューを思い出すと、ぞっとする。
・腕立て伏せ、腹筋、背筋各100回 x 3セット
・スクワット連続300回
・ベンチプレス80kg x 5
・懸垂50回 x 4セット
・5kmジョギング
・上記に加え、通常の練習
これを月〜金まで毎日やっていたのである。
なんなんじゃこのメニューは。
殺す気か!
っていうことをやって、やっと細マッチョだったのであった。
シュワちゃんなどには到底及ばない筋肉量であった。半分もなかったんじゃないか。
むろん、当時は筋肉をつけようとは思っていなかったし、何より体重制限もあって筋肉量はあまり増やさないように気をつけていたところもあるったから、こと「筋肉肥大」ということでいえば適切なメニューではなかったかもしれない。
しかし、人間というものはもはや限界と思えるほどに鍛えても思いの外筋肉はつかない、ということだけは経験済みであった。
だから、ものすごく腑に落ちたのである。
そりゃあそうである。
細マッチョを目指して細マッチョになれるなど、そんな甘いわけがあるか。
ふざけんな!
ナメんな!
細マッチョになりたければ、ゴリマッチョを目指さないと、なれるわきゃあねーだろうがー!
ほんとうは、ゴリマッチョなんかになりたくはないのである。
でも、目指すとしたら、ゴリマッチョなのであるなあ。
怖いようー。
オシッコ漏れちゃうようーー。
アーン、ママーー!
なんとなくカンで推測がつくのだけれども、ここまで筋肉をつけたら、たぶん逆に具合悪くなるんじゃないかな。
だってもう、人間のカタチをしてないんだもの。
それに、日常生活がかなり面倒くさいと思う。
自分で背中を掻くこともできないんじゃないか。
ケツも拭けないんじゃないか。筋肉が邪魔で。
服も特注になってしまうんじゃないかなあ。
あと単純に、デカすぎて存在が邪魔。
でも、心配はまったく無用なのであるね。
ここまで行くには「人生を筋トレに捧げる」ほどの生活を送り、かつ、天性の体質もなければならないらしい。
一説によれば、ドーピングをしなければ、一般人はこうはならないそうである。
ダイジョウブなのである。
これぐらいを目指しておいて、やっとギリギリ細マッチョになれるらしい。
目指すのは、もはや人間ではない。
目指すべきは、ゴリラなのであった。
ウホッ。