もし家をもう一度買うとしたら、あるいは建てるとしたら、決心していることがある。
「窓の少ない家にする」
もはや一種の宗教なのではないか、と疑ってしまうほど、住居関係の広告では「明るい・窓が大きい・風通しがいい」ことを大声で叫ぶようになった。
リフォーム関係のテレビ番組でも、窓ばっかりの家が特集されたりしている。
「明るくてステキ〜!」
おそらく主婦層の代弁者としてであろうが、妙齢の女性タレントがそういって喜んだりしている。
まあ、タレントはそう「言わされている」だけだから罪はないが、このたぐいの番組は罪作りだなと思う。
住んで見ればわかる。
窓が多い、大きい家が、どんなにツライことになるか、ということを。
ぼくの家は一軒家で、とにかく窓がでかくて、多い。
だから普通に売られているカーテンのサイズが合わず、最悪特注になったりしてしまうこともある。
この家は建売りで、窓の大きさというのもじつは購入理由のひとつだった。
そりゃあ、暗いより明るいほうがいいしな。
明るくて風通しがいいなら、最高じゃん。
そんな浅はかなことを考えていた。
違うっちゅうのっ。
アホかっちゅうのっ。
家というのは、絶対に窓は少ないほうがいい。
さすがに倉庫みたいに真っ暗というのは問題があるが、建築基準法ギリギリの線で窓は少なくするほうがいい。
寒いのである。
あるいは寒暖差が激しくなってしまうのである。
窓というのはいくら窓ガラスを締めていたとしても「開放部」であることに変わりはない。
風は入ってこないが、窓は断熱性が低いので「コールドドラフト」という現象が起こる。
外気が冷たいと、部屋の空気が窓を通して冷やされて冷たい空気が生まれ、それが下に流れていって隙間風のようになる。
窓の下に枕を置いて寝ていたら最悪である。
頭部に冷えた空気を直撃して、風邪をひいたり慢性頭痛になったりする。
そしてコールドドラフトだけでなく「放射冷却」のようなことも起きる。
窓から1m以上離れているというのに、窓の方角から冷たい空気が流れてくる。
インテリアの本やウェブサイトでは「窓からベッドを10cm離すだけでも良い」などということが書かれていることがあるが、ウソである。
まったくなんにも変わらない。
「コールドドラフト」は防げるが、放射冷却は防げないのである。
「ペアガラスにすれば良い」
ということを書いていることもある。
これもウソである。
ペアガラスにしたところで、結局最も冷えるのは窓ではなく「アルミサッシ」である。
いくら窓ガラスが断熱性の高いものであっても、アルミは熱伝導率が非常に高いから、サッシによってコールドドラフトが起きる。
もちろん普通のガラスよりは良いが、思ったほど効果がないのである。
また「二重窓」も、意味がない。
窓の内側に樹脂製もしくは木製の内窓をつければ良いという話をよく聞くが、これもあまり効果はなかった。
まあ確かに、放射冷却は少しマシになる感じはある。何もしないよりかは、かなりマシではあり。
しかしコールドドラフト現象を防ぐことはできないのだった。
ベッドを窓から20cmほど離し、窓はペアガラスにし、窓に全面的に「プチプチ」を貼り、さらに二重窓にして、そこに厚手のカーテンとレースカーテンを二重にしていても、寝ている時にヒヤッとした冷気が顔に当たり、ハッと目を覚ます。
あるいは頭が冷えすぎて原因不明の頭痛になる。
これが、しょっちゅうである。
窓が多く、大きいと、この現象は更に頻発するようになるのである。
冬は寒いが、夏は暑い。
もし直射日光が当たるのであれば、その部屋は「温室」と化す。
むしろ外よりも暑くなることのほうが多くなる。
これも、ブラインドをしようが、遮熱フィルムを貼ろうが、厚手のカーテンを引こうが、たいして改善が見込めない。
「窓は基本的に、どうにもならない」
ということは、もっと周知されるべきだと思う。
また、寝室以外でも問題がある。
仕事部屋の場合、大きな窓がもし視界に入ると確実に眼精疲労になる。
ただ、まぶしさに関してはカーテンを締め切っておけば回避はできる。
しかしもし背後に大きな窓がある場合、そこで仕事をしているとコールドドラフトや放射冷却によって背中が冷え、原因不明の風邪を引いたり、最悪は自律神経失調症になる。
「そんな神経質な」
みんな、そう思うのである。
ぼくも、そう思っていた。
窓が開いていて風が直撃するのならまだしも、ちゃんと窓を締めておけば多少寒くたって大丈夫だ。
最近の家は気密性が高いし、昔のスカスカの家に比べたら全然OKじゃないか。
エアコンもあるし、ファンヒーターという手もある。
根性だ、気合だ。なんとかなるさ。
そんなことを、考えていた。
アホである。
「長時間・長期間」が、じわじわと身体を蝕んでいくことを知らないのである。
「スカスカの家」なら、それ相応の対策もするし、その環境に人体は慣れていく。
しかし気密性は高く、室内気温も決して低いわけではないいのに、コールドドラフトなどで身体の一部だけが冷えるようなことを繰り返していると、体調が予想外に悪化するのである。
寒暖差というのは絶対値だけではなく相対値によっても決定されるから、暖かい部屋で冷たい空気を身体の一部に浴び続けていると、自律神経がぶっ壊れてしまう。
不自然なのである。
ぼくが非常に腹立たしく思っているのが、風水である。
風水というのは「住居の科学である」などとエラそうなことをうそぶいているくせに、こんなに大事なことをなんにもいわないのである。
「ドアと対角線上の部屋の奥にベッド置け」
「ベッドの頭は壁につけろ」
そんなことをよく聞くが、その場所は木造住宅の場合コールドドラフトが起きやすい場所である。
いくら断熱材を入れた壁であっても、外気に触れる壁にベッドの頭をくっつけたら、夜中に冷気で何度も目を覚ますことになるだろう。
また一般的な住宅の場合、部屋のドアの対角線上のどちらかの壁には(場合によっては両方に)窓があることが多いので、そこはコールドドラフトや放射冷却が起きやすい場所でもある。
ベッドを置くべき場所は「ドアの対角線上」では、ないのである。
「家の開口部から最も離れた場所」でなければならないのだ。
ベッドはドアから離れるのではなく、窓から離れることのほうが重要で、窓からしっかり距離をとっているのであれば、こと冷気や寒暖差については部屋のドアの近くであっても問題ない。
家の中のドアは、外気に接していないので「開口部」ではない。便宜的な扉にすぎないのである。
似たような理由で、エアコンからもできるだけ離れるほうが良い。
風水というのは、理屈ばっかりいって、なにひとつ「検証・実験」をしないのが大問題である。
だから風水は、断じて科学と考えてははならない。
「イデオロギーの一種」であり「宗教」である。
正しいことも確かにあるのだが、間違っていることがあまりに多すぎて現実的に役に立たないばかりか、すなおで罪のない主婦や、病で困っている人などを混乱に貶め、誤った道を辿らせる元凶であり、とても罪深い思想体系である。
建築家も、プロなんだからちゃんと主張してほしい。
中には「窓は大きすぎても、多すぎてもいけない」と、非常に正しいことを言っている建築家もいる。
しかし「売れる」ことばかり意識して、巨大な窓を大量に用いた設計をする人がとても多いのである。
これは「不善」である。
儲けることはとても良いことだが、住人の不健康を交換条件にするのは良くない。
交換条件は金銭のみで十分である。
そして、買う方も買う方である。
「あかるいおうちが、すきなの〜」
「おおきなまどって、おしゃれ〜」
などと、いつまでも白痴のようなことを言っているから、建築業界もそれに合わさざるをえなくなってしまっているのもあると思う。
業界を育てるのは消費者の役目でもあるという。
ほんとにまったく、いつから日本の家は、こんなに窓ばっかりになったんだ。
いまから家を建てるひとは、「窓をできるだけ減らす」ということも考えてほしいと思う。
大きな窓の家に18年住んで得た、教訓である。