へんなイライラ

最近、といってもここ3日間ほどであるが、なんだかイライラする。

 

仕事がそれほど忙しいというわけでもないし、とくべつイヤなことがあったわけでも、心配事があるわけでもない。

なのに妙にイライラする。

特に原因はないから特定の怒りを抱えているわけではなく、最近はむしろ機嫌は良いほうである。

気分そのものは落ち着いている。

昨晩などは「M-1グランプリ」をテレビで観て、無邪気に大笑いをしていたほどである。

 

そういえばレオタード姿で新体操を踊り、満面の笑みを浮かべて、

「浅倉南38歳。最近、イライラする!」

という芸をする女性の芸人さんがいたと思うが、まさにそんな感じなのである。

最近、ニコニコしながら、イライラしているのである。

普通に考えれば、ニコニコしながらイライラするというのは原理的に不可能なのではないかと思う。

もしそんなことが可能なら、ワクワクしながら絶望することも可能なのではないか。

もしそんな人がいたらかなり不可思議なのではないかと思うが、実際には「満面の笑みを浮かべて怒る」という不可解が存在するのである。

 

先週、年の瀬につき神宮大麻を新調し、古い御札類は神社のお焚き上げに納めに行ったのだが、そのあとに町内会で配ってくれた御札がリビングからひょっこり出てきた。

両親が町内会でもらってきたもので、てきとうにそのへんに置いておいたものらしい。

そのような扱いが良いのか良くないのか、ぼくにはわからないが、こういうのもちゃんと返納しないといけないだろうと思ったので、二度手間ではあるが散歩がてらまた神社に歩いていった。

結構寒いが天気はよく、そもそも寒いほうが好きなぼくにとっては散歩日和とさえいえる日であった。

だから、機嫌じたいは良いのである。

しかし鼻歌交じりに歩いていても、なんだかイライラする。

このヘンなイライラは今日に始まったことではなく、数日前から同じである。

信号機が赤で進行を阻害されるたびに、微笑みながら「チッ」と舌打ちをする。

へんなおじさんである。

 

神社に到着し納札所に向かったのだが、きょうはなにかのイベントがあるらしく閉鎖されていた。

扉に「古い御札は社務所へお預けください」という張り紙があった。

そういえば昔、納札所が開設される時期よりも前に納札所を訪れたことがあったが、そのときもそうだった。

そういう場合は社務所に古い御札を持っていけば手続き不要で「あいよっ」と受け取ってくれる。

むろん巫女さんが「あいよっ」などと魚河岸の大将みたいなことは言うわけがないが、それぐらいツーといえばカー的に、迅速に処理をしてくれるという意味である。

踵を返して社務所へ向かうと、ひとりの妙齢の女性が巫女さんと向き合って話をしていた。

行列人数「1」である。

ソーシャルディスタンスを保ちつつその女性の後ろに並んだのだが、ようすがおかしい。

ふつう社務所ではおみくじを引くとかお守りを買うなどの行為がほとんどだから、先客があっても長時間待たされるということはまずない。

しかし本日は、数分待っても前の女性が立ち退かないのである。

女性は社務所の受付のところで何やら書類を作成しているようである。

もしかすると、お祓いなどの申込み手続きをしているのかもしれない。

 

いつものぼくならば、その程度の待ち時間など気にしない。

決して大人物ではないが、そんなことでイライラするような小人物でもないと自認している。

年の瀬につきお祓いの申し込みというのも不自然なことではない。

しかし、本日は別である。

本日のぼくは「満面の笑みを湛えた小人物」なのである。

(なにをやっとるんじゃあ)

ぼくの中に流れる讃岐の血が騒ぎ、ココロの中で讃岐弁で独り言を言ってしまう。

ぼくの手には古い御札がある。

この御札をあの巫女さんにスっと差し出せば、スっと受け取ってくれて、それで事業は完成する。

およそ2秒で事業は完成するのである。

2秒で完成する事業のために、もはや6分ほども待ち続けている。

 

ふと、妄想をしてしまう。

もしぼくが、あの女性芸人のように突如新体操を踊りはじめ、

「ぼく50歳。イライラする!」

と満面の笑みで叫び、くるくるっと回って、

「はよーなしゃっせーッ!!!」

と、前の女性の後頭部をペシーとハタいたら、いったいどういうことになるであろうか。

昨今は「無敵の人」という、無差別に他人に危害を加える輩が多発している時期でもある。

大変なことになるのではないか。

神社の神職全員が出動してきて、秘伝の呪文で金縛りにされるかもしれない。

そして警察に突き出され、家族に連絡が行く。

「父親が神社で新体操を踊りながら満面の笑みで見知らぬ女性の後頭部をハタいた」となれば、娘の心境はいかがであろうか。

「息子が神社で新体操を踊りながら満面の笑みで見知らぬ女性の後頭部をハタいた」となれば、両親の心境はいかがであろうか。

笑っていれば何をしても許されるというのは、おそらく10歳ぐらいまでである。

10歳を過ぎた人間は、仮にブッダのような柔和な笑みを湛えていたとしても、したらいけないことは、してはいけないのである。

50歳ともなれば、いわずもがなである。

想像して、戦慄が走る。

逮捕の理由としてこれほど不可解なことは、そうあるまい。

まだ痴漢とかケンカのほうが、わかりやすいといえる。

そして最もおそろしいのが、

「ちょっとだけやってみたい」

と思っているところなのである。

 

あぶないところであった。

ぼくがとうとうクルクル回りだす前に、「行列1」はやっと解消されたのであった。

ぼくは0.5秒で御札を巫女さんに手渡し、1.5秒で「お焚きあげをお願いします」と頭を下げて、その場を後にした。

やはり事業は2秒で完成したのであった。

 

帰ってから腕立て伏せ10、スクワット30、腹筋30、背筋30、ダンベル20をやったところ、スーと落ち着いた。

少し運動不足だったのかもしれない。

女性である38歳の浅倉南がわけもなくイライラするのは、医学的には更年期障害で、女性ホルモンが急減したことが原因なのだそうである。

ぼくはおじさんで、おじさんがわけもなくイライラするのは、男性ホルモンが急減したことが原因の場合もあるそうである。

女性ホルモンを増やすのはけっこう難しいようだが、男性ホルモンを増やすのはわりと簡単で、とりあえず筋トレすれば良いのだそうだ。

こういうところにも「男の単純性」が垣間見えて、おもしろい。

ぼくの場合は筋トレをしておけばだいたい大丈夫なのであるが、世の女性たちはいったい、どうしているのだろうか。

更年期障害の女性は非常に多いと聞くが、更年期の女性が突如街頭で踊り始め、満面の笑みを浮かべて誰かの頭をハタいたという話は寡聞にして知らない。

ガマンしているのであろうか。

男性より女性のほうが我慢強いという話もあるから、そういうことなのかもしれない。

あまり我慢強くないぼくは、希少種の無敵の人にならないよう、筋トレをしようと思う。

 

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