あたたかいしあわせ

先日、夕方ぐらいから痛くなった。

かなり痛いのだが、どこが痛いのかが、どうもよくわからない。

眠れないほど痛い、ぐらいに痛いのだが、「ここが痛い」というのがわからない。

「痛いんですけど、どこが痛いのかがわからないのです」

などということを言えば、短気なひとはキレてしまうのではないだろうか。

なにを言うとんじゃワリャー、痛い場所がわからんとかフザけとんかワリャー、それやったら痛うないんじゃろうがワリャー、といってビンタされるかもしれない。

しかし実際には、そんなことがあるのである。

 

胃が痛いのかな、という感じはある。

しかし、胃が痛いわけではない。

背中や首が痛いのかな、という感じもある。

しかし背中や首が痛いというわけではない。

脚や腕、頭はぜんぜん痛くない。

だから胴体のやや真ん中あたりが痛い、というのは確かである。

なのに、「ここが痛い」というのが、どうにもよくわからないのである。

もしかしたら心臓が痛いのだろうか。

これが噂に聞く「放散痛」というものなのであろうか。

心筋梗塞、とか、心臓発作、とか、狭心症、などという不吉なワードが頭に浮かんで不安になる。

おお、神よ。

おれはとうとう、心臓を壊してしまったのでありますか。

しかしどうやら、そういうことでもないようである。

痛みのせいで眠れないから、こんどはだんだんイライラしてくる。

なんなんじゃワリャー! 痛いんやったら、どこが痛いんかはっきりせえやワリャー! どないなっとるんじゃワリャー!

と、こんどはぼくが短気になっていくのである。

 

結局「冷えていた」ようである。

背中が冷えたことで広背筋、僧帽筋、肋間筋などが硬直して、胴体全域に痛みが走っていた。

胴体の広範囲が痛いので、胃が痛いような、背中や首が痛いような、なんともいえない痛みを感じていたようである。

使い捨てカイロで背中を温めてみたら、ほどなく痛みは消えていった。

ふしぎなのは、けっこうしっかり風呂に入ったのに、風呂では痛みは治らなかったことである。

こういう場合は全身をくまなく温めるよりも局部を集中的に温めるほうが効果が高いようである。

 

しかし、さて、なぜであろうか。

ぼくはいったい、何をしたから、あるいは何をしなかったから、こんなに背中が冷えたのだろうか。

部屋は暖房をかけていたし、薄着をしていたわけでもない。

それにその日の昼から夕方は普段より気温は高めだった。

よくよく思い出したところ、まず第一に、じつはこの暖かさこそが原因だったように思う。

その日もいつものように散歩に行ったし、筋トレもしたのだが、温かいためにけっこう汗をかいてしまったのだった。

この汗が冷えて想定外に背中が冷えてしまったようである。

 

そして第二に「椅子による冷え」である。

普段仕事で使用している椅子は樹脂製のメッシュ・チェアで、非常に通気性が良いかわりに、冬はとても冷たくなるという欠点がある。

プラスティックなどの樹脂は、さすがに金属ほどではないがかなり冷たくなるのである。

その日の日中の気温はそうでもなかったが、前日の夜から朝方にかけては外気温は0度になるほど低下していた。

だから早朝の椅子はキンキンに冷えていたのだった。

それに座って長時間仕事をしていたせいで、背中〜腰〜臀部がキンキンに冷えてしまったのだった。

そこで椅子の座面にムートンの座布団を敷き、背もたれをフリースの毛布で囲ったところ、それ以降あの妙な痛みは出ることはなくなった。

 

かつて柔道をしていたこともあって、ぼくの腹の底のほうには「根性論」が居座っているところがある。

寒くても我慢をするという方向性があるのである。

部屋の中が7度ぐらいしかなかったとしても、以下のように考える。

「江戸時代の人は暖房なんかなかったんだ。それでも生きていたんだから、これぐらいで音を上げるなど情けないことだ」

このような考えは一見、なるほどと思うところはあるにはある。

確かに現代人は弱くなったかもしれない。

しかし、上記の論理には4点の瑕疵があるのである。

1)わたしは江戸時代の人間ではなく平成時代の人間である。

2)江戸時代の人は確かに寒さに耐えていたが、そのかわり寿命は短かった。

3)江戸時代の人は何時間も椅子に座ってパソコン作業をしたりはしなかった。

4)普段から「強くなる」ことをとくにしていないくせに、強い人のマネをするという愚鈍さ。

当時の人の条件と現代人の条件を一切無視したうえで「昔の人は強かった」とか言うのは、明らかにバカが言うことである。

バカが考えることである。

バカの考えは、休みに似たりなのである。

 

ぼくはもうそのようなバカっぽくて硬直的な根性論は捨ててしまおうと思う。

ぼくは、ぼくなのである。

平成時代のいまを生きている、いまの人である。

ぼくは、過去に生きているのではなく、いまを生きているのである。

昔の人の言うことばかりを信じ肯定し、現代の言説が信じられず否定する人は、「いま」に問題を抱えている。

「いま」を肯定できないから、「過去」に逃げているのである。

たしかに、昔の人が言うことにも正しいことはあった。

しかし、すべてが正しかったわけではなく、明らかに誤っていたことも多い。

不可逆的に進化していく人類という種においては、「いま」のほうがむしろ正しいことが発見されている可能性が高い。

しかるに、現代を否定し過去を称揚する傾向が強いというのは、真理探求のベクトルではなく、たんなる個人的な心理的葛藤を抱えてるだけに過ぎないことが多い。

電磁波に代表される最新技術を恐れ、過去への回帰を理想とし提案してくるオッサン・オバハンにはあまり近寄らないようが賢明である。

そういう人に接していると、その人の葛藤が「伝染る」。

過去も現代も、正邪の比率は等しくいつも五分五分である。

 

寒い、というのは、じつはそれほど悪いことではないと思う。

注意しなければならないのは「冷たい」ことなのではないか。

考えてみれば、ぼくがパニック障害になったり自律神経をぶっ壊したのは「冷え」が原因だった可能性もある。

日頃からあちこちが炎症気味のため、冷たい飲み物を好み、よく冷えたビールを常飲していた。

よく水分をとるものだからよく汗をかき、その汗によって冷えていた。

夏はガンガンにエアコンをかけ、冬は寒さを我慢し、冷たい床の上で、冷たい椅子に座って、じっとして仕事を続けていた。

寒さに弱いのは根性が足らんのだという硬直した思想に基づき、冬でも薄着を敢行していた。

 

「冬には薄着のほうが健康に良い」というナントカ整体などの代替医療に見られる意見は、おそらく間違いである。

ぼくは40年間以上そのようにして生きてきたが、きちんとパニック障害になり、きちんと自律神経をぶっ壊し、そして長期間治らなかった。

あのような短絡的な理論には、あまり近づかないほうが良い。

人間は恒温動物であり、やはり暑さよりも寒さのほうが根源的には危険なのである。

もちろん日頃から不必要に温めたり、寒さを回避していてばかりいるのは良くないと思う。

しかし、だからといって、長期間・長時間・日常的に冷やしてばかりいると、決定的に神経をぶっ壊してしまう可能性がある。

冷えはやっぱり、毒なのである。

毒は少量であれば薬になるが、大量になれば猛毒なのである。

一部の代替医療がのたまう「寒さに耐えろ」というプロパガンダには、あまり安易に乗らないほうが賢明であると思う。

日頃から冷えに注意し、不必要に冷えない生活を送っていれば、自律神経は安定してくる。

自律神経が安定していれば、多少の寒さには動じなくなる。

「暑さ寒さに耐えることで自律神経が鍛えられ安定する」のではなく、「自律神経が安定しているから暑さ寒さに強い」という機序こそが本来的であり、基本的な原則であることを忘れてはならない。

 

だからすでに自律神経に不調和をきたしているひとは、強引で逆ザヤ式の民間療法的方法論を試す前に、まずは自然で順式の方法論すなわち「温める・冷やさない」を実行するべきなのであろう。

自然順式の方法でますは神経バランスを回復してから、そこから「逆式強化」を実行する。

この手順を整理せず、ただやみくもに無理ばかりをするというのはバカっぽいだけでなく、危険だのだろうと思う。

自律神経がシッカリしていれば、やみくもにヌクヌク温めてばかりいると自然に鬱陶しくなって、自然に薄着になり、自然に元気に外を走り回るようになるのだと思う。

 

人間は鉄ではないのだから、叩きまくれば強くなるというものでもない。

そして鉄でさえ、叩きすぎれば割れてしまい、使い物にならなくなる。

ものごとにはすべからく、加減と知恵が必要である。

具合がわるいときはヌクヌクして、温まれば良いのだと思う。

温めると心地よいのであれば、その人はもうすでに、冷えている。

 

  • ぽぽんた より:

    >温めると心地よいのであれば、その人はもうすでに、冷えている。

    そう
    そうですね

    あたたかいのが
    何よりの
    栄養

    かも ね

    • TERA より:

      とくに50歳を過ぎたあたりからは、あまり恒常的に冷やさないほうが良さそうですね。
      「年寄りの冷水」ともいいますし。
      客観的に見てみると、ぼくの生活は「冷え冷え」だったことに気が付きました。
      風呂は湯が少なく、日常的に冷たい水をよく飲み、よく汗をかいて汗冷えをし、暑がりだから薄着で、昼寝は毛布をかぶらずに1時間も寝て、寒い部屋で冷たい椅子に座って朝から夕方までじっとデスクワークを続けている。
      これで冷えなかったら、超常現象ですね。
      もうそろろ「冷え」に注意していこうと思います。

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