この世はバカでできている

ある会社の人たちとオンラインで商品広告の打ち合わせをしていて、衝撃が走ったのである。

それは話の流れでぼく自身の口から無意識に出た一言によるものであった。

 

「この世はバカでできている」

 

この言葉を発したことによって、その場の全員がフリーズした。

ぼくもフリーズした。

なぜそのような言葉を発したのか、自分でもよくわからなかった。

しかしその場では社長も含め「確かにそうだ・・・」という雰囲気になり、それまでの話の流れが一変したのであった。

そして広告方針も一変した。

 

打ち合わせのテーマは、その会社のある製品をWebサイトでどのように広告するかということだった。

その製品は非常に性能がよく、品質もよく頑丈で、とにかく「良いもの」であった。

しかし、なぜか売上が伸び悩む傾向がある。

良い製品だからけっこう売れていて、リピーターも多く、だからその会社の経営は安定しているのである。

しかし、伸びない。

良い製品なのだからもっと売れても良いはずなのに、あまり購入者が増えないのである。

これは広告のしかたに問題があるのではないかということで、今回の打ち合わせにつながった。

 

その社長は良心的で、愛があり、営業力もあり、説明がうまく、また非常に賢い人である。

従業員もみな、そのような人たちである。

そのような人たちだから、作る製品がすばらしいのは当然ともいえる。

作るだけではなくしっかりマーケティングも行い、ユーザーのニーズを分析し、試行錯誤をサボらず製品開発に明け暮れている良い会社なのである。

なのに、思ったほど売れない。

一回買った人は非常に高い確率でリピートするのだが、新規顧客の獲得がどうもうまくいかないのである。

なぜか。

どうしてか。

その会社のひとたちは、善良な心と賢い頭をフル回転させて日々悩むのである。

 

いっぽう、ぼくは最近遅れ馳せながら「ユーチューバー」にハマって、その人たちの動画を見ていた。

べつに目的があって見ていたわけではなく、これも流れで呆然と見ていただけである。

そのような「ユーチューバー頭」のままで打ち合わせに臨み、善良で賢い社長や社員の人たちのプレゼンテーションを聞いていて、思わず言ってしまったのである。

「良い製品だというのはわかるんですけど、それってバカには伝わりませんね。たぶん。」

「この世はバカでできているんで、もっとバカを相手にしたほうがいいんじゃないですか」

だれかが持っていたエンピツをポトリと取り落とす音が聞こえる。

 

なぜ、売上が伸び悩むのか。

それは「賢い人ばっかりを相手にしていた」からだったのかもしれないのである。

高度なアタマで非常に精度の高い論理を構築し、信頼のおけるエビデンスも漏れなく網羅し、その論理をプレゼンテーションしてユーザーを啓蒙していた。

だから論理的な思考ができる人や、科学的な思考が得意な人にはバッチリ伝わっていた。

しかし見方を変えれば、ターゲットを年齢層や性別、動機や嗜好性などでふるいにかけた上に、

さらに「賢い人」というよけいなフィルターまでかけていたということである。

賢い人だけに、売っていたのである。

 

「この世はバカでできている」

無意識に出た一言であったが、ぼく自身がハッとした。

そうなのである。

「賢い人」に普段から接していると、この世は賢い人だらけなのではないか、と考えてしまうようになる。

しかし実際には、賢い人にもずいぶんバカなところがあって、結局全部総合してしまうと、この世はバカのほうが圧倒的に多い。

 

ぼくは本来けっこうなバカであったが、それに劣等感を抱いたからなのか、臆病だからなのかよくわからないが「賢くなりたい」という欲望を持っていた。

だからいっしょうけんめい勉強をしたし、いっぱい本も読んだ。

その結果、たいして賢くなれなかったくせに、賢い人にしか伝わらないようなことばかり考えるようになってしまったのである。

ということは、この世のマイノリティーだけを相手にしはじめたということである。

この世の大メジャーを無視し、避けて、狭苦しい世界で生きていこうとしていたのである。

ぼくは賢くなろうとしたことで、暗く狭い闇のような世界に迷い込んでしまった。

そんな努力は、する必要がなかったのではないか。

賢くなろうとしなくても良かったのではないか。

ぼくは、そのままで良かったのではないか。

この世は、バカでできている。

ならばバカと「一体化」するほうが良いのかもしれない。

寄らば大樹の陰である。お日さま西西である。

そもそも自分が結構なバカなのであるから、この一体化は楽勝である。

「そのままの自分」に戻れば良いだけである。

 

理屈なんぞ、知識なんぞ、真実なんぞ、クソくらえじゃ。

そう丹田が叫んだ時、世界がまるで密厳浄土のように輝いて見えた。

 

 

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