先日、バランスの良い「いい加減さ」を手に入れるためにはエロを開放することが必要だということに思い至った。
そこでぼくは、決断をしたのである。
「エロくなろう!」
ぼくはいま50歳のおじさんであるが、今後10年・20年先の行く末を見据えて目標を立てようと思うのである。
ふつう実年の人の将来目標というのは、老後のために健康を保持したいとか、あるいは財産を確保しておきたいというところであろう。
あまり「エロくなろう」と考える人はいないのかもしれない。
しかし、ぼくは悟ったのである。
エロさがあれば、なんでもできる!
エロさを失ったら、枯れてしまう!
ということに。
おじさんというのは、すでになんとなくエロいイメージがあるのも確かである。
しかし実際には、たとえば20代30代のころに比べれば圧倒的に性欲は減退している。
エロへの興味もスカスカになりつつある。
若いピチピチのギャル(古いなあ)に対しては、もはや性欲に関係しないほうの「可愛さ」を感じる。
わが子に接しているような感覚で、いや、もはやそれさえもはるかに超越した「子犬を愛でる」ような感覚である。
「うんうん、よしよし、みんな元気だね、たのしそうだね、よかったね」
みたいな感じなのである。
いかん!
いかんなあ!
いや「いかん」ということもないのかもしれないが、ちょっぴり早すぎるのではないのだろうか。
世間一般を見回してみても80歳・90歳にもなっていまだにエロエロを保持しているいわゆる「エロジジイ」というのは、おおむね肌ツヤもよく、声も大きく、とても元気である。
あまり病気しないイメージもある。
いっぽうスルメみたいにパサパサに乾燥しているジジイというのは、だいたいにおいて性欲が皆無か圧倒的に低減しており、体調もあまりよくないことが多いイメージがある。
「枯れている」とは、言い得て妙である。
したがって、この50代に目標を持つとすれば俄然「枯れたジジイ」よりも「エロエロジジイ」なのではないのだろうか!
このあたりの論理は、とても完成度が高いのではないだろうか!
さて、では、50を過ぎたおじさんが「エロくなる」にはどうしたらいいのだろうか。
そこでぼくは親友に相談してみたのである。
仲間内でもエロいことで有名な親友である。
すると親友は驚いたことに、このようなことを言うのである。
「何を言うとるんじゃお前は」
その言い方にはまるで「そんなかんたんなことも知らないのか」というような言外の響きがあった。
「エエ歳こいて何を言っているんだ」というような、そのような揶揄の響きは感じられないのである。
そこで彼が提示してくれたアドバイスの中に「ぼくの知らない世界」があった。
50歳ともなれば、この世のことはおおむね知り尽くしているような傲慢な感覚を持っていたりするものだが、やはりこの世には知られざる世界があったのである。
「エロゲー」すなわち「エロいゲーム」というのが、あるのである。
ぼくはそもそも子供のころからゲームというものをほとんどしたことがない。
貧乏でゲーム機を買ってもらえなかったというのもあるし、それよりも本を読むほうが好きだったというのもある。
有名どころではドラゴンクエストとか、ファイナルファンタジーとか、そういうのがあるが一回もやったことがない。
正確にいえば10年ほど前に誘われて「リネージュ2」というMMORPGのゲームをしたことがあるが、とても不愉快であった。
映像は美しく、キャラクターが自在に動かせるという技術には痛く感動したのだが、そのようなゲームは残念ながら「殺す」ということがメインの作業なのである。
「オオカミを30匹殺してこい」「イノシシを150匹殺してこい」などと、さっき知り合ったばかりの見も知らぬオッサンやオバハンに依頼され、それを無理やり敢行しなければならぬ。
カワイソウではないか!
ぼくはそもそもゴキブリでさえ殺すのを躊躇うような気の弱い人間である。
「なにも殺すことはないのではないか」
などと、わりと深刻に悩んでしまうタイプなのである。
そんな人間にはオオカミを数十匹殺せなどという殺生なオーダーは受け入れがたいものがある。
「エロゲー」というのには、そのような殺生はないのだそうである。
とにかく登場するのは美女ばかりであり、彼女たちとイチャイチャしたりするのがメイン・クエストであり、場合によっては性行為に及ぶことさえもあるのだという。
ぼくの好みに合うであろうエロゲーを紹介するにあたり、質問があるという。
いわば適性診断のようなことである。
「二次元が好きか、現実が好きか」
これは物理学的命題や哲学的命題の話ではなく、つまりマンガやアニメのような線画タイプの女性が好きか、3DCGのように立体的な女性が好きか、という問いであった。
「なぜそのようなことを問うのかわからないが、現実的なほうが良いに決まっているだろう」
そう答えたのだが、この世には「二次元でなければ興奮できない」という奇特な嗜好性を持つ御仁もいるということである。
おそらくかなり想像力が豊かな感性を持つ御仁であると考えられる。
ぼくは期待に胸を膨らませた。
まず入り口のところでまた「知らない世界」が展開されたのである。
そして次に、
「マイクラは好きか」
という。
マイクラは「マインクラフト」というゲームで、じつはこれは以前やったことがあり、かなりハマった。
これは非常に面白く、町を自分で構築していけるゲームで世界的にもかなり人気がある。
そのゲームは大好きだと答えると、親友は言った。
「では、このゲームが良いだろう」
適性診断なのだから質問は十数個あるのだろうと思っていたのだが、たったの2個の質問でぼくの適性は明らかになったのであった。
そのゲームをやってみて、ぼくは驚いた。
まさに立体的な女性が廃墟の無人島というシチュエーションの中で活発に動き回っている。
景色はとてもキレイだし、女性も非常にリアルであった。
このリアルさにはたしかに驚いた。やはり技術の進歩はすさまじいものがあるのだなあ。
設定としては、船の難破かなにかで美少女と二人っきりで無人島に漂着した、というようなことのようである。
またこのゲームはマイクラのように「家を構築していく」ということも可能であった。
とくにこの素材を集めて何かを制作したり建造物を構築したりするというのはマイクラととてもよく似ていて、そういうのが好きなひとはハマる。
ぼくもハマった。
時間を忘れて採集に勤しみ、建造物の構築に明け暮れたのであった。
そこでふと、思ったのである。
「これのどこが、エロいのだろうか」
ネットで調べてみると、じぶんがなにもアクションしなければエロいことは起きないということのようであった。
そこで女性をクリックしてみると「話しかける」とか「アドバイスする」などの選択肢が表示される。
その中にはなんと「エッチしたい」というのもあるではないか!
そこでさっそく「エッチしたい」をクリックしてみるると、その女性はこんなことを言うのである。
「ごめんね、今はちょっと・・・」
まあ、それはそうであろう。
さっき出会ったばかりの男に突如「エッチしたい」と言われて即座に「いいよ」などと答えるような者は、言語道断である。
そんな女は、こちらから願い下げである。
そこでぼくはまた建造物の構築に勤しむのであった。
しかし、そのうちだんだん、腹が立ってきた。
そこらへんをウロウロしているこの女は、いったいなにをしているのであろうか。
建築には多くの材料が必要なので「素材集めを手伝ってくれ」という依頼をしたのに、結局なんにも持ってこないのである。
「うん、わかった」
と、返事は良かったのである。
しかし結局、なにも持ってこないし、なにもしない。
しまいには、そのへんでグースカ眠っていたりするのである。
なんじゃこの女は。
無人島に二人っきりで漂着してしまったということは、完全に生命の危機である。
このような状態であれば生活基盤を構築するための作業を双方協力して行うべきであり、なにかできることを自分で考慮せねばならん。
しかるにこの女は、ニタニタしたままフラフラと泳ぐようにそのあたりを徘徊し、なにも採集せず、しょっちゅう風邪を引き腹をすかせてメシをむさぼり食うのである。
だれかに何かをしてもらわなければ何もできなような女は、このような環境下においてはそのうちすぐに頓死してしまうであろう。
世は男女平等社会なのである。そっちに向かってみんな頑張っているのである。
女といえどこの非常事態には指示がなくとも自力で何らかの制作をすべきではないのか。
そうかと思えば、こちらが一生懸命に必要物資の収集をしているときに、突然話かけてきたりする。
「最近、あなたの名前ばかり書いているの・・・なんでだろう」
といって、目の前でユラユラ揺れているのである。
待て!
お前がいま疑問に思うべきは、なぜおれの名前を頻繁に書いているのかということではなく、この無人島に紙と筆記用具がなぜあったのか、ということではないのか。
なぜ、報告しないのか。
そのような人工物があったのなら、もしかしたらほかにだれか住んでいるかもしれないではないか。
助けを求められるかもしれないではないか。
筆記用具のメーカーからこの無人島がどの国の領土なのか推測することが可能かもしれないではないか。
おまえはいったい、この非常事態になにを呑気なことをやっているのだ!
そんなヒマがあるんなら、食料でもとってこんかいワリャー!
彼女をクリックして「蹴り飛ばす」というコマンドを探したのだが、出てこなかった。
蹴り飛ばすことも、張り倒すことも、説教することもできなかった。
せめて「説教する」ぐらいはあっても良いのではないのか。
結局、イライラしてやめた。
ぼくにとってはこのゲームは「建造物を構築する」ことのほうに意識がいってしまって、女なんかどうでもよくなってしまったのだった。
それどころか、もはや「邪魔である」とさえ思うようになった。
ウフフ、じゃねえよ!
ニコニコ、じゃねえよ!
笑っとらんと、働けこのアマがー!
向いてない。
昔から思っていたのだが、やっぱりぼくはゲームに向いてない。
べつの方法で、エロくなる方法を考えよう。