箱入りおじさんの「菌」トレ

きのうの夕方から、頭が痛い。

微熱も出ていて節々が痛く、若干しんどくて、すこし息苦しい感じもある。

咳はそれほどではないが、くしゃみを連発したりする。

風邪である。

 

最近きゅうに暖かくなったので、季節の変わり目で体調が狂ったのだろうと考えていた。

しかし、そうではない可能性が出てきた。

昨日の昼ごろに久々に一人暮らしの娘が帰省してきていて、しばらく話をしていたのである。

娘が帰っていってから数時間後、きゅうに熱っぽい感じがして頭痛が始まったのであった。

翌日別件で娘に「風邪引いたかもしれん」とLINEを送ったところ、以外な返事がきた。

「私が帰るたびに、翌日風邪引いてない?」

むむっ。

そういえば・・・

 

「よく風邪を引く」という自覚はある。

しかしこの現象をよく観察してみると、じつは「娘が帰省してきた翌日」に風邪を引いているのである。

娘はおおむね月に1回程度帰ってくるから、ぼくの風邪の頻度とほぼ合致する。

 

今回のコロナ騒動と全く関係なく、ぼくはずいぶん前からリモートワークだった。

長年、毎日誰とも会わず家で仕事をしていて、外出は近所のスーパーに買い物に行くか、散歩程度である。

飲みに行ったり外食するようなことも一切ない。

そう、ぼくは「箱入りおじさん」なのである。

 

一切外部の人と接触をしない生活。

このせいで「菌バランス」が崩れている可能性がある。

外の人に一切接触しない生活を送っていれば、当然外の菌に接触する機会もない。

そうなると体内の菌の種類の数がかなり少なくなって、偏ってしまうそうである。

体内の菌バランスが偏ると菌抵抗力が一気に下がって、悪玉菌にやられやすくなるという説もある。

清潔にしすぎるとぎゃくに不潔になるという、一種のパラドックスがあるようだ。

 

確かに、娘がうちに帰ってくるたびに、ぼくは風邪を引いている。

娘は大学生で一人暮らしだから、学校やバイトなどで多くの人に接している。

菌叢がスカスカなぼくは、豊富な菌叢を持つ娘と接することで「侵されて」しまうのではないだろうか。

日頃まったく人に接触する機会を持たない「箱入りおじさん」は、想像以上に菌に弱くなるのだろうか。

 

「菌トレ」が必要なのかもしれない。

そういえば昔営業マンをしていてしょっちゅう飲み歩いていた頃は、あまり風邪を引かなかった。

いろんなところで、いろんな人に会うことで、自然に豊富な菌叢を構築していっていたのだろうか。

もしそうならば、今のぼくはどうすれば良いのだろう。

誰とも会わないのである。

お酒は完全にやめてしまったから、酒も飲まないのに外食をするというのは、ぼくの文化にない。

また、じぶんは飲まないくせに酔っぱらいのタワゴトに付き合ってあげるような、そんな菩薩のような精神性も持ち合わせてはいない。

シラフのまま、喫茶店で誰かのくだらない長話に付き合ってあげるような、そんな聖女のような精神性も持ち合わせていない。

 

どうしようか。

今まで以上にスーパーに通い詰める、ということも考えた。

しかし今はマスクをして入店をするから、入店回数を増やしたところであまり意味はないのではないだろうか。

会計のたびにレジのおばさんの手を「ぎゅっ」と握る、というようなことも考えたのだが、それはおばさんに迷惑であろう。

それにその理由が「あなたの菌がほしい」とかいうのは、かなり常軌を逸している気がする。こわい。

それならばまだセクハラ的な理由のほうが納得できるというものである。

 

困った。

コロナの件もあって、いまの社会は他人の常在菌をもらうことがとても難しくなっているのである。

もういっそのこと、スーパーの床を転げ回る、というのはどうだろうか。

それでは服が汚れるだけなので、できれば上半身ハダカになって床を転げ回るほうがより効果的かもしれない。

しかしそんなことをすれば、確実に通報されるであろう。

「上半身裸でスーパーの床を転げ回ってはならない」という条例は、おそらく日本にはないと思う。

条例がないのだから、おれを止めるのは人権侵害だ!

「イヤダー! 離せー! おれは、この床を転げまわらなくちゃいけないんダー! 離せー!」

などと叫び、取り押さえに来た警官の腕を上半身ハダカの状態で振りほどこうとしているじぶんの姿を想像すると、戦慄が走る。

もはや狂人である。

そんな屁理屈をこね回すのは、例のマスク着用拒否で飛行機を止めてしまったあの「あぶないおじさん」と同じことになってしまうではないか。

ぼくはそのようなことで人生を棒に振りたくはないのである。

 

そのほかにも公衆便所に入って便器を撫で回すとか、エスカレーターの手すりをひたすら素手でゴシゴシするとかも考えたのだが、いずれもあまり現実的ではない。

通報関係の恐怖もあるが、それよりも単純に「ほんとうにあぶない菌」をもらってしまいそうである。

欲しいのは多種の常在菌なのであって、病原菌が欲しいわけではないのである。

そう考えると、コロナ以前の「外食での会食」というのは、とてもよくできた「菌トレ」だったなあと思う。

複数人でペチャクチャ喋りながら笑いながら同じテーブルで飯を食えば、計画せずとも効率的に他人の常在菌が体内に取り込まれるであろう。

なにもスーパーの床を転げ回る必要などなかったのである。

はやく、コロナが終わってほしい。

「菌トレ」のためにも、強く思う次第である。

 

まあその前に、シラフでも人の話や酔っぱらいの話に付き合ってあげられる高度な精神性を獲得しなければならないが。

しかし下戸のひとって、どうして酔っぱらいの話に長時間笑顔で付き合ってあげられるんだろう。

そんな人はぼくからすれば、ほとんどマザー・テレサのようである。

 

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