なぜ呼吸法が効かなかったのか?

さまざまな神経的・精神的不調には、呼吸法がよく効くといいます。

ヨガでも呼吸をとても重視していて、先生のなかには「すべてのアサナとクリヤは呼吸法に通じる」とまで言うひとがいます。

 

しかしぼくには、呼吸法が全然効きませんでした。

まず、神経的に一切問題のない、超絶元気なころ(高校〜大学生ぐらいのころ)、腹式呼吸をいくら長時間やったところで、

「なんなん、これ?」

「それがどうしたん?」

「なーんにも変わらへんやんけ」

という感想しか出てきませんでした。

 

その後パニック発作を患い、自律神経もおかしくなってからヨガに通うようになって、さまざな呼吸法を学びました。

しかしこんどは「呼吸法を行うとよけいにおかしくなる」という、おかしな事態に陥っていくのです。

とくに発作を起こしている最中に「息を長く吐かねば」「ゆっくりとした呼吸をせねば」「お腹でイキをしなくては」などと強く意識すると、逆に発作は悪化します。

とうとう過呼吸まで引き起こして、恐怖や不安はむしろ増長し、いったい何のために、何をやっているのか、さっぱりわからなくなってしまうのでした。

発作時でなくとも、呼吸法を実践すると、かえって具合が悪くなることは多い。

そういった経緯から、ぼくは確信したのです。

「呼吸法なんか全然役にたたないばかりか、かえって状態を悪くする」。

 

これはいったい、どういうことなのでしょうか?

最近すこし自覚できてきたのは、「普段の呼吸に関係している」ということかもしれない、ということです。

 

元気なころ、呼吸法に一切効果ががなかったことについては、おそらく「必要がなかった」のだと思います。

もともと肺活量が人よりも多く、かつ柔道というわりと激しい運動を日常的にしていたために、呼吸力が旺盛だったのでしょう。

なので少々腹式だの完全だの片鼻だの、そういったことを試してみたところで、普段から深く長い呼吸をしていたものですから、その効果をまったく実感できなかったのだと思います。

だって、普段していることと、ほとんど同じことをしているのですもの。

 

いっぽう、自律神経がおかしくなってからは、逆に呼吸が非常に浅くなっていたと思われます。

よく本やネットで「呼吸が浅い」と、十把一絡げに雑に言うことがありますが、この「浅い」には、じつは正確には2種類あります。

「吐き切った状態で浅い」のと、「吸いきった状態で浅い」の2種類です。

ぼくはおそらく、後者だったのだと思うのです。

もともと少し反り腰で鳩胸ぎみ、かつ痩せていてもお腹が出ているという、やや黒人系の胴体をしています。

これはつまり、胴体内の空洞が大きいということです。

デスクワークで姿勢が悪くなって肋骨が下垂したとしても、そのぶんおなかが前に出て、空気を吸ってしまっているのです。

いわば、通常からイキを吸いっぱなしのような状態にある。

そんな状態で、深い呼吸をしたら、どうなるか。

血中酸素量が過剰になってしまうのではないでしょうか。

よって、過呼吸のような状態に陥ってしまうのではないか……。

 

そこで、試してみたのです。

何らかの呼吸法をするまえに「しばらく息を止める」ということを一回挟む。

まず真っ先に、10秒ほど、息を止めてしまうのです。

じつはぼくの場合、たとえばデスクワーク中にきゅうに息を止めたって、全然苦しくないのです。

10秒くらいなら楽勝。全然苦しくとも、なんともありません。

これはつまり「10秒間息を止めていても大丈夫なくらい、十分な量の酸素が血中に存在していた」ということだと思うのですよね。

やっぱり「吸い切った状態で呼吸が浅い」という状態だったのではないでしょうか。

 

さて、そうやって意図的に血中の酸素量をいったん減らし、二酸化炭素の量を増やした状態で、おもむろに腹式呼吸を行ってみる。

そうすると、ふしぎふしぎ、ほんとうに気分が落ち着いてくるのでした。

つまり、呼吸法が、効いてくる。

なんじゃい、呼吸法って、やっぱり効くんやんけ! 気持ちええやんけ!

普段から、ウォーキングやヨガ程度ではあまり気分が良くならず、息が上がるほどキツい運動をしたほうが呼吸が楽になるのも、じつは飽和した酸素をいったん使い切ってしまっていたからなのかもしれません。

 

普段から「息が吐けていない」。

そういえば、緊張状態にあると、ヒトは息を「吸って」しまうのだそうです。

何らかの危機的な状態に陥ってもとっさの行動ができるように、本能的に血中酸素をストックしておこうとするのかもしれません。

しかしこれが恒常的に継続すると、血中の活性酸素量が増えてしまい、過呼吸やパニックを引き起こしてしまうんだそうです。

ふだんからなんとなーく息苦しいのも、筋力とか肺活量とかそういうことではなく、「吸いっぱなし」によって血液のpH値が酸性に傾いていたからなのかもしれませんね。

 

「よし、気合いれてやろう!」

「あと少し、がんばろう!」

「やりだしたら案外できるんだ、だからまずは、はじめてしまおう!」

……そんな決意は、じつは「緊張」なのですよね。

ばかみたいに、普段からこんなこと「ばっかり」をしているから、いずれ「いつも吸ってるヒト」になってしまって、血中酸素が過剰になってしまうのかもしれません。

一説によると、勉強したり、ネットや本で情報をかき集めたり、探したり、聞こうとしたり、見ようとしたりするとき、つまり「何かを得よう」としているとき、人は「息を吸う」のだそうです。

いっぽう、誰かに何かを教えたり、表現したり、伝えたり、説明したり、やさしくしたり、つまり「何かを与えよう」としているときには、人は「息を吐く」のだそうです。

ぼくがこうやってブログをよく書くのも、じつは「溜まった酸素を吐き出したい」だけかも、しれませんよね。

 

呼吸法は、ただやれば良いというものでもない。

「いま私は、どういう状態なのか」

これをまず確認してからでないと、効くものも効かなくなるのかもしれませんね。

ふだんから緊張や不安が多く、欲の多いひとは、まず「止めて、使ってから」呼吸法を開始するほうが、良いのかもしれません。

 

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